人工内耳をすれば保育園から普通小学校が可能になる?

人工内耳を装用すると

人工内耳を装用した後に

人工内耳は、補聴器に比べると圧倒的に聞こえがよくなり、それに伴って重度難聴と診断された人の発声発語を大きく改善しました。中には聞こえる人とは区別ができないほどの発話で、スムーズに会話ができる方もいらっしゃいます。

人工内耳装用後は、音入れ(初めて人工内耳を介した音を聞く)に始まり、マッピングやハビリテーションがあり、さらには言語訓練等が長い期間にわたり行われます。これにより、聞こえや発声発語が大きく改善されていきます。
主には言語聴覚士によるマンツーマンにより指導が20分から60分程度みっちりと行われます。週に1回から始まり、次第に指導の間隔は伸びて月に1回となり、何カ月かに1回となっていきます。
ただ、お子さんにもよりますが、マッピングが安定してきて、発声発語が始まり、一対一の会話が成立するようになると、あとはご家庭や保育園で、自然な声かけで、と言われることもあるようです。

人工内耳の効果と限界

しかし、「人工内耳とは」のテーマのページでも説明しましたが、まずは個人差がかなりあります。聞こえにしても、発声発語の状態にしても、同じメーカーの同じ人工内耳を装用していても、その効果は著しく異なります。
それは、もともとの内耳の障害の実態が大きく異なるからです。
そして、限界もあります。静かな環境の中で、一対一での会話は問題なく行えても、騒がしい場所での会話、複数の人が同時にしゃべっている場面での会話では、現在の人工内耳では聞き取りがかなり落ちるといわれています。

子どもの集団生活における人工内耳の装用

保育園、幼稚園では

保育園の保育室、幼稚園の教室の様子を思い浮かべてください。
いつもさまざまな音がしていて、常に何人もの子どもが、大人がおしゃべりをしています。もちろん、ご家庭では、静かな環境下で、しっかり子どもの目を見ながらの言葉の成長・発達を意識した声かけをされていることとは思います。
しかし、一日の数時間を過ごす場である、保育園や幼稚園ではそれがほとんどできなくなってしまいます。それで十分な音声言語を浴びることができているといえるでしょうか。
音声言語からの情報がほとんどないことが、お子さんにとっての当たり前の状態になってしまわないでしょうか。

小学校では

次に、小学校の教室の様子を思い浮かべてください。小学校では、授業が始まります。それは、音声言語によるコミュニケーションによって成立するものです。さらに先生だけがお話をするわけではありません。教室にいる他の子どもたちも積極的に発言することが求められます。
授業中には私語も多くあります。子どもはまたそれが楽しいことなんですよね。今の学校ではアクティブ・ラーニングといって、子どもたち同士でしっかりお話をして、自ら学習課題に取り組むような授業が求められています。
はたして人工内耳を装用したお子さんが、何の支援も配慮もない場合に、周りの子どもと同じように授業の学習内容にしっかりと取り組むことができるでしょうか。

学年が進むと

小学校3、4年から学習内容はより抽象的で高度な中身になってきます。言葉は熟語が多くなり、教科書の文章は、複文で構成され、文体も受け身文などの複雑な文となります。ますます細かい聞き取りや頻繁なコミュニケーションが必要となってきます。
その中で「分かったような、分からないような状態」におかれてしまって、しかも本人がそれに気づかない状態のままで、どんどん時間が経っていくという状態になってしまわないでしょうか。

仲間と出会うことの大切さ

このように、人工内耳を装用した、コミュニケーションができるようになった、毎日楽しく会話ができていると思っていても、お子さんの成長とともに、その効果には個人差が出てきて、限界も生じてきます。
これらのことをよく踏まえて、生活の中で配慮することや、学習の場の持ち方や配慮を考えていく必要があります。そのためには、「自分一人だけではない」ことを知らせる必要があると思います。
同じように人工内耳を装用した同世代の子ども、手話で生活している同世代の子どもと出会い、そして、同じような環境で生きてきた先輩たちと、常日頃から交流をもっておくことが大切ではないかと考えます。そうすると、お子さんは、自分が、今、どのような状況にあるのかを理解して、周りの人たちに自分に何が必要なのかを言えるようになるのではないでしょうか。

聞こえない、聞こえにくい当事者であるお子さんの声に丁寧に向き合っていきたいと考えます。