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《学習の転移とは その1》

 

「学習の転移」とは前に学習したことが後で学習することに影響を与えることをいいます。

ここでは「光合成」の例をとってみましょう。

ろうの子どもが「光合成」は何かということを、その意味を、母語である手話でまずしっかり理解しているかどうかが、大事なのです。つまり、植物の葉緑体は太陽の光のエネルギーを用いて、二酸化炭素と水からデンプンなどの炭水化物を合成し、酸素を出すのだ、ということが理解できていれば、そういう働きのことを「光合成」というのだ、と単にそれに対応する日本語の名前を覚えればいいということです。

「光合成」ということばを見て「光を使って何か二つ以上のものを混ぜ合わせてものを作ることだな」と想像できる日本語力がついていればなおよいですね。そういう言葉について、言葉で考える力をメタ言語能力と言います。そういう見方ができるようになると「「光合成」から「合成繊維」、「化学合成」などが、みな関係があることも簡単に理解できるでしょう。メタ言語力は、言語をより正確な形で理解、運用していく上で重要なステップとなります。

もし自分が小学生でまだ「光合成」が何かを知らないときに、初めてその説明を英語で聞いて理解しなくてはならなかったとしたらどうでしょう。Photosynthesisが何であるかわかる自信がありますか?でも「光合成」が何であるかをしっかり理解できていれば、同じことを英語では別の名前で呼ぶのだということを覚えるだけで済みます。英語で同じ内容を理解しなおす必要はないのです。「光合成」をフランス語ではPhotosynthèseと言います。似ていますね。スペイン語ではFotosíntesis。綴りは違いますが、発音はみんな「フォ」です。なぜならば語源がみなギリシャ語の phos(光)だからです。

ヨーロッパにはよく5ヵ国語くらい話せる人がいますが、似ていることば同士だったらそう難しいことではありません。しかも、外国語学習にも「学習の転移」がよく働くので、外国語を1つ身につけると、そのあと2つ目、3つ目はぐんと楽になります。しかし似ていることば同士だと逆に「負(マイナス)の学習の転移」というのが働くこともあります。綴りが似ているとまぎらわしい、同じ綴りで母語と異なる意味を持つ語の意味を間違えて使うなどです。

いずれにしても、まず自分が一番よくわかることばで内容をしっかり理解することが大切だということです。