日本手話での子育てのポイント

日本手話での子育てのポイント

はじめに

新生児スクリーニングでリファー(再検査)になったその日から、日本手話で語りかけることをおすすめします。これは、聞こえる赤ちゃんが生まれたその日から毎日ご両親や兄弟の声を聞いてことばを溜めていくのと同じです。聴者のご両親が、突然日本手話を使うことはできません。でも、大丈夫です。ろう者の子育てをモデルにして、できることからはじめましょう。

一番大切なことは「目を合わせる」ことです。補聴器をつける生後6ヵ月まで、聞こえにくい・聞こえない子は目で情報を得ています。(補聴器をつけた後も、人工内耳をした後も、情報を100%受信できるのは目だけです)コミュニケーションのすべてが「目を合わせる」ことからはじまるのです。そして、音や音声、行動をお子さんが見えるように心がけましょう。方法はいろいろあります。最も望ましいのは、「見えない音声」ではなく「見える手話」を使うことですが、乳児の間は手話にこだわらなくてもコミュニケーションする方法はたくさんあります。

まず、お子さんの視界を意識します。聞こえにくい・聞こえない子にとって「見えないことは無いものと同じ」です。お父さんやお母さんの姿が見えることが、お子さんの安心につながります。そして、語りかけるときは必ず目を合わせて『今からお話しするよ』という意思表示を見せることからコミュニケーションがはじまります。手話だけにこだわらず表情や身振り(ジェスチャー)、体に触れる、指さし、物を見せるなど、少し工夫をすれば、リファーになったその日から、お子さんに語りかけることができるんです。

乳児期のコミュニケーション

例えば、赤ちゃんのおむつを替えるときの様子を想像してみましょう。

聞こえる親子の場合、お母さんは赤ちゃんにいろいろなことを話しかけます。赤ちゃんが泣いていれば「どうしたの?おむつかな?」「あ、おむつ濡れているね。替えようね」などと言っておむつ替えの準備をするでしょう。おむつを脱がせたときにも「さむい、さむい。すぐ終わるよ~」とか「きれい、きれいしようねぇ」とか。おむつを替えたら「はい。すっきりしました。気持ちいいね」などと言ったりします。もちろん、この頃の赤ちゃんはお母さんの言葉の意味はさっぱりわかりません。それでも赤ちゃんのまわりの大人たちはたくさん語りかけます。こうしたことが、後に赤ちゃんのことばや概念につながっていきます。聞こえにくい・聞こえない赤ちゃんにも、この時期から語りかけをしていきたいですよね。でも音声では何も伝わりません。どう接すればいいか見てみましょう。

(例)おむつを替えるとき

※大人は優しい笑顔で接します

①目を合わせる(話しかけるよという合図です)

②赤ちゃんのおむつをポンポンと軽くたたく

③赤ちゃんに新しいおむつを見せる

④おむつ替えをする

⑤汚れたおむつを丸めて、赤ちゃんに見せながら

 鼻をつまんで「臭いね~」という表情をする

⑥バケツやビニール袋に捨てる

※この一連の動作の繰り返しが「おむつ替え」の概念につながっていきます。

幼児期のコミュニケーション

この時期の子どもたちは、自分の体験をもとにたくさんのことを理解して行きます。日本語の単語を教えることばかりに気を取られず、お子さんと少しでも多くコミュニケーションをとりましょう。それがことばや思考につながっていきます。地域の公園で遊ぶとき、遠くのおじいちゃんの家に行くとき、お友だちが家に遊びに来るときなど、状況に応じた語りかけをすることで、子どもの理解は深まり思考を育てることができます。この時のポイントは、遊びやイベントの予定を事前に子どもに話しをすることです。デフファミリィー(家族全員がろう者/両親がろう者)でない場合、聞こえにくい子どもは家族の中で情報不足になっていることがよくあります。例えば、家族でお出かけする直前までその予定を知らなかったり、行先やいつ帰るのか、何をするのかなどを知らないまま、ただついて行くことがよく見られます。聞こえる子どもは、両親が話していることを“小耳に挟んで”「どこか行くの? どうして? いつ行くの? 誰と行くの? 何しに行くの?」など、質問責めにするかも知れません。そこまでしなくても、両親の会話から何となくどこかに行くらしいということがわかります。このとき、情報の置いてきぼりになるのが聞こえにくい子です。(補聴器や人工内耳をしていても“小耳に挟んだ”情報から想像を膨らませることは、きわめて難しいことです)事前に、意識して伝えてあげることが大切です。もし、予定が変更になったら、「前に〇〇に行くと話したよね。でも中止になった。理由はね~」と話してあげてください。3歳児でも、話せばちゃんとわかります。この頃までには、ご両親もそのくらいの手話ができるようになっているといいですね。幼児期の子どもには、たくさん話しかけて、たくさん体験させてあげてください。

(例)週末、おばあちゃんが家に来るときの事前の会話

母「静岡のおばあちゃん、知ってるよね」

子「うん、知ってる」

母「今度、家に来るよ」

子「どうして?」

母「家族に会いたくて来るの。一緒にご飯食べたり、お話しする。いい?」

子「うん、いいよ」

母「今度の土曜に来て、日曜日に帰るよ」

子「泊まるの?」

母「そう、泊まるよ。一緒に寝る?」

 ~など、話をどんどん膨らませていけるといいですね。

※一度にいろんな事を話しかけるのではなく、ひとつずつ会話を積み重ねることがポイントです。

 

保育園やベビーシッター、祖父母などに子どもを預ける場合どうしたらよい?

ご両親が日本手話やろう者の子育てを参考にお子さんとコミュニケーションを重ねている場合、保育園や祖父母など手話ができない方にお子さんを預けるとき、何をどうお願いしたらいいか迷いますよね。そのときは、【乳児期・幼児期、日本手話での子育てのポイント】を参考にするのが良いでしょう。聞こえにくい・聞こえない子は、補聴器をしても人工内耳をしても聴児(聞こえる子)と同じようには聞こえません。見えない場所での会話や足音、物を動かしたり、片付けたりする生活音などを意識しないで聞き分けることは難しいことを伝え、視界や目線、表情、身振り、指さし、場所や物の写真やイラストなどを使って手話を知らなくても出来ることからお願いしましょう。加えて、最小限の必要な手話単語を覚えてもらうといいですね。

 

(例)おわり、いい(構わない)、行く、食べる 

※手話単語だけを使えても、無表情だったり、逆の表情をしていると伝わらないので注意が必要です。

※手話単語より、伝えたいことに合った表情の方が乳幼児には伝わります。