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《今までのまとめと導入》

 

前回のバイリンガル・バイカルチュラルろう教育ミニ講座ではろう児の言語獲得を中心にお話してきました。ろうの子どもの第一言語は何か、それはどのように身につけられるのか?普通の生活で使う手話だけで学校で難しい勉強を進めていけるのか?耳からではなく、目から情報を得ている日本のろうの子どもの第一言語が日本手話であることは間違いないとしても、周りが日本語環境にある日本のろう児にとって、日本語を知らずに生きていくことは事実上不可能です。だから、ろう児はバイリンガルにならざるを得ない、なった方が便利だ、得だ、そうだ、バイリンガルに育てよう、というお話です。

さて、ろう児の第一言語が手話であること、そしてその後の第二言語の発達や認知能力の発達に第一言語がもっとも大切であることから、ろうの子どもに手話環境を確保することが大事でしたね。聞こえる赤ちゃんが自然に日本語を獲得するのと同じ環境です。しかし、90%のろう児の親は聞こえますから、手話は知りません。ろうの赤ちゃんであるわが子に出会う前に、ろう者に会った経験のない方がほとんどでしょう。さて、ではどうやって手話環境を確保したらいいのか。それにはろう者が運営している乳児クラスに参加するというのがもっとも入りやすいやり方だと思います。もちろん、身近にろうの知り合いがいればいいですが、そういうケースはほとんどないと思います。

初めて出会ったろうの赤ちゃん。でも、自分は手話がわかりません。自然に家の中で話しかけたり、歌を歌ったり、絵本を読んだりしたいけど、自分にはそれができません。では、手話を覚えましょう!! 「言うは易く、行うは難し」、ですね。大人になって新しい語学を習得するのは大変です。今からタイ語を覚えなくてはならないとしたら大変なことです。まず文字だって違います。でも、手話には文字がない。それだけでも楽?さあ、どうでしょう。習ったことをメモして復習したり、覚えたりすることができない、ということですよ。 大人が語学を学習する時には、発音と文法は欠かせません。子どもと同じように自然に身につけようとすれば、子ども以上に時間がかかります。子どもが言語を一応使えるようになる年齢を3歳、文字を使い知的な活動ができるような言語能力を持つのが6歳とすると、大人がその方法でやろうとすればもっと時間がかかります。大人は起きている時間全てを言語獲得に使えるわけではないし、それまでの経験や知識は新たな言語獲得に役に立つこともあれば、妨げになることもあるからです。

大人は自分が持っている第一言語の知識や、今までに勉強した第二言語(ほとんどの人が英語でしょう)の学習経験が使えます。また、使わないといつまでも子どものようなことばを学んでいることに飽きてしまいます。 では、これから日本手話の発音や文法を学んでいきましょう。