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《CLと固定語彙》

 

身振り(ジェスチャー)はろう者も聴者も理解できるしぐさで、言語化されていない体の動きです。ですから言語に縛られていない分、世界的に共通性が高いのですが、 逆に文化によって受ける制約が異なります。たとえば、日本人がする「お金」や「女」のジェスチャーはアメリカでは通じません。

さて、手話の中のCLと固定語彙の話をしましょう。

有名な例の/驚く/を使ってご説明したいと思います。

固定語彙の/驚く/は「跳び上がるほどびっくりした」という比喩(メタファー)から生まれ/跳び上がる/という動作が/驚く/という語彙になったものと考えられています。一度語彙化してしまうと、/跳び上がる/という動詞にあった非利き手が地面を表し、二本足の生き物(人間)が上に跳躍する、という意味はなくなってしまい、非利き手から利き手が離れる、という動きだけが/驚く/という意味をあらわすようになります。したがって、非利き手はもはや地面ではないので、地面と水平に保たれる必要はありません。非利き手は地面と垂直になっていて、跳んでいるほうの人間が地面に水平に跳んでいてもかまわないのです。それらはすでにここに地面、および人間を表すことは止めていて、全体で「驚く」という意味をあらわすようになっているからです。その段階では、一番調音が楽な位置に手の位置と運動が変わっています。これは言語の自然な成り行きです。

同じような例は/秋田/にも見られます。非利き手の手の甲と利き手の親指が接していることが重要で、非利き手のむきは自由に変えられます。

しかし、手話は一度固定語彙になってしまってからでも、CLに戻す、解凍することができるのが特徴です。

/驚く/番外編

/驚く/はもう固定語彙になっていますが、「2回転半してしまうほど驚いた」というふうに、もう一度CLに戻すこともできるのです。しかも、この人が跳び上がるタイプの/驚く/は自分自身の体験を表す時にろう者はあまり使いません。聴者はなんでもかんでも跳び上がる系の/驚く/を使いたがるのですが、ろう者は自分の体験を語るときには別の/驚く/(心臓が破裂する)をよく使います。以前、聴者の研究発表にあったのですが、「お化けに出会って、びっくりした」、「びっくり箱から飛び出してきて驚いた」などという時には、心臓破裂形や目玉飛び出し形を使うのです。

ろう者は本当にいろいろな驚きの表現をしますよね。「あまりびっくりして目玉が跳び出し、土の上をゴロゴロ転がったので、仕方がないので水道で洗って、また入れなおした」という表現です。ろう者にとって跳び出した目はもとに戻す必要があるようです。皆さんも、ぜひ豊かなCL表現を目指して下さい。