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《時制とアスペクト》

 

今、何と言ったかわかりますか?疑問文でしたよ。答えて下さいね。では、もう一度。

これはYES/NO疑問文ですね。目が見開いていて、眉が上がっています。ですから、「はい」か「いいえ」で答えて下さい。「はい、食べました。」「いいえ、食べませんでした。」もしかして、まだ食べていないけれど、これから食べる場合には、「いいえ、まだです。」と答えて下さい。

さて、朝ごはんを食べたかどうかという質問は、過去のことについての質問です。「食べた」というのは動詞の過去形ですね。手話の動詞は時制に応じてどのように活用するのでしょう。「きのう学校に行った?」というのと、「明日学校に行く?」というのではどう違うでしょう。動詞「行く」に注目してみると同じ形をしています。「きのう」をつけるか、「明日」をつけるかで、いつのことを話しているのかが決まります。したがって、手話の動詞は日本語のように時制に応じて変化しません。日本語だと「寝る」が「寝た」、「する」が「した」のように変化しますが、手話ではそのような形の変化がおきません。 しかし、先ほどの「食べた」の例のように、単純な過去のできごとというより、「もう食べた(もう食べてしまった)」「まだ食べていない」のような完了か未完了かというような区別をする場合もあります。その場合には完了を表わす別の形を使います。こういうものをアスペクトと言います。この完了形はもともと/終わる/という意味の動詞だったものが、助動詞化したもので、「パ」という口型とともに用いられます。この完了形が「食べ終わった」という複合語ではなく、「食べた(完了形)」であることは音韻の違いでわかります。もう一度見て下さい。簡単に言うと、長さが違いますね。また、日本語だと「食べてしまった」と「まだ食べていない」となるところが、手話では/食べる+完了形(パ)/と/食べる+未然形(マダ)/という順番になります。

手話の動詞の中にも日本語の「くる」が「きた」になるような不規則変化をするものがあります。例えば、手話の /見る/ は /見た/という別の形を持っています。/行く/にも/行った/という形があります。

さて、次は未来形を見てみましょう。「明日学校に行く。」手話の動詞の形は現在形と同じでいいですね。日本語でも現在形は実は意味的には現在のことではなく、これからのこと、未来を表しています。「勉強する」は今勉強しているのではなく、これから「勉強する」ことを意味しています。日本語の動詞の時制は基本的に過去か非過去かです。

では、今勉強している状態を手話では何というでしょう。/勉強+中/となります。/読む+中/、/泳ぐ+中/、/食べる+中/、/寝る+中/などなどです。日本語の「勉強している」「泳いでいる」などのテイル形と言われる形です。これもアスペクト表現です。この手話の/中/は日本語からの借用ですが、手話では助動詞的に使われています。日本語でも「死んでいる」というのが「今死にかけている途中である」ということではなく、「すでに死んでしまった状態である」ということを示していますが、手話ではこのような場合には/死ぬ+中/を使うことはできず、全く別の表現になります。

時制とアスペクト。英語を習ったときに勉強しましたね。現在形、過去形、未来形、現在完了形、過去完了形など。そして現在進行形、過去進行形。なつかしいですか?手話を勉強する時にも、みんな必要です。がんばって勉強して行きましょう!